新型コロナウイルス感染症に関連する人権への配慮について
新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報を入手し、人権侵害につながることのないよう、冷静な行動をお願いします。
●STOP!コロナ差別-差別をなくし正しい理解を-キャンペーン●
「新型コロナウイルス感染症に関連して-不当な差別や偏見をなくしましょう」
神戸新聞の発言欄にこんな意見がありました。コロナウイルス禍についての投稿です。
「人には、優しい心と醜い心が同居しているようだ」
優しい心とは、不足するマスクを提供したいと思ったりする心、醜い心とは医療従事者らへの攻撃や偏見のこと、とあります。
兵庫県市川町出身の脚本家橋本忍さんもかつて、盟友黒沢明監督のテーマは「誰もが善と悪を背負って生きている」だったと書いていました。この数カ月を振り返ると、なるほどその通りだと思ってしまいます。
「人」を「社会」と言い換えてもいいでしょう。より弱い立場の人に何かできないかと考える人はこの社会にたくさんいます。
一方で、感染した人に対するドキッとするほど冷たい視線もまた、この社会にあります。
感染者の出た兵庫県内の病院勤務医が、記者の前で嗚咽(おえつ)を漏らしたという記事が忘れられません。深刻な風評被害や中傷にさらされながら、患者のすぐ近くで看護師たちは懸命に向き合っています。「その現実だけでも知ってほしい」と。胸が痛みました。
「感染は本人のせい」と思う傾向が欧米の人に比べて日本人は突出して高いそうです。なぜでしょう。
やりきれない偏見の背景に、「本人のせい」と舌打ちするような意識が横たわっているのでしょうか。
でも冷静に考えたいと思います。感染するおそれはみんなにあります。
いや、感染していることに気がつかず、ウイルスをまき散らしているかもしれません。
哲学者の鷲田清一(きよかず)さんが神戸新聞への寄稿で、コロナ禍で大切にしたいことを記していました。
それは、感染者をなじったりすることではなく「どのように共存するかに心を砕く」こと。
そうでないと、「『ひと』としての品位も地に落ちる」と。優しい心を抱きしめたい。
林 芳樹氏
1951年、南あわじ市生まれ。同志社大学卒。
神戸新聞社で社会部副部長、論説副委員長などを経て編集局長、2012年から現職。著書に「それぞれの終章―読者と語る生と死」(社会部編)など。「火輪の海―松方幸次郎とその時代」(共著)で村尾育英会学術賞。いずれも神戸新聞総合出版センター刊